文字通り、翻訳の原点

こないだ、神保町で本祭りがあったので、目を光らせながらぶらぶら歩いていたらこの本を見つけた。

『翻訳の原点』

NOVAブックスがぎっしり詰まった店頭のワゴンで品定めをしていると、通りすがりの小学生の男子が「NOVA? ああ、あのつぶれた…」みたいな事を友達とふざけ気味に言った。しかし、「いや、この本は違う!」と心で反論した。

この日記にリンクするつもりで今初めてアマゾンのブックレビューを読んだけど、まさにそこに書いてある通りで、この本は翻訳の何たるかをよーく説明してくれている。

言葉や文がもつ情報量の大きさを考えること、自然な訳文を作ることなどが主な内容だ。
たとえば「during」という言葉があって、「〜の中で」と訳しがちだけど、「The tumor was removed during the operation.」という文を訳すとき、「その腫瘍は手術中に摘出された」なんてやりそうなもんだけど、最も自然なのは「手術で腫瘍を摘出した。」という感じになる。手術中に腫瘍が摘出されるのは当たり前のことであり、それをわざわざ”during”があるからといって「〜中に」なんてやらなくていい。(私ならやりそう/汗)

……みたいなちっちゃな事だけど、日本語でもそうであるように、てにをはのささやかな違いとか、こういう事に気をつけただけでまるっきり自然で、なおかつ原文の意味を損なわない、純粋な翻訳に限りなく近づける。それは日本語の言葉選びのセンスとかそういう問題以前に、ごく基本的かつ、まずやらなければならない手順なんだと知った。この事だけでも、この本からもの凄く大きな糧を得たような気がした。


日々翻訳をしていく中で、何度も謎にぶつかる事がある。推測で乗り越えられる時もあれば、誰かの手を借りなければならない時もある。また、最近気付いた事だけど、わけがわからない時でも原文を素直に汲み取って行けば、ことわざでも独特の言い回しでも、乗り切る事ができる。

もっと頭をやわらかくして、原文に立ち返って、自然な翻訳にたどり着く。これは一生の目標かもしれない。

Comments

  1. NOVAブックス、情報量子論…どこかで聞いたことあるなぁと思ったら、辻谷先生の著書でしたかー!

    私が医薬翻訳業をしていたときに師事していた先生です。
    この先生に"医薬翻訳とは何か"を一から教わって、仕事をもらえるまでに鍛えて頂いた恩師です。
    英語が得意だから訳せる、と思い込んでいる人が多いなか、特に和訳に関しては英語よりも日本語を大事にする人でなければきちんとした翻訳はできない、という考えの方でした。
    また、他人に物事を理解しやすく伝えるのがとても上手で、難しい説明でも筋道立てて理論的に教えてくださるので、つまずいたところも納得して前に進むことができました。すごい人なんです。。

    今は翻訳業ができなくなってしまって(毎日バタバタしていてきっちり挨拶に行けていないままなんですが…)直接関わる機会もなくなってしまっているんですが、こうやって、先生の著書が高く評価されているのを見て嬉しく思いました。

    megちゃんの英語力・翻訳力もきっと、ボストンにいた頃よりもさらに向上してるんでしょうね~。また、書かれた記事を読める機会があれば知らせて下さいね(^^)ノ

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  2. ええっ! それは驚きです! さすがみいさん、良い先生についておられたんですね。もう、前書きからあとがきに至るまで、この本の一言一言に大きくヘドバンして(笑)うなずくぐらい、共感できるのと、もちろん目から鱗という程に学ぶ事があるのとで、毎日抱えて読んでます。

    翻訳に触れば触るほど、英語の知識も必要だけど、日本語ってそれ以上に重要なんですよね。この1年、翻訳や通訳に関する本をあれこれと読んできたのですが、唯一この1冊が私の最も知りたかった事を教えてくれました。おっしゃる通り、具体的にどう考えればいいか、どうすれば良いかという事を本当にわかりやすく示され、ズバリ的を得ている文章ばかりです。

    私の訳は、実務でも何でもない口語的なものばかりですが、これを糧に精進したいと思います。英語を話す機会は格段に減ってるので、英語力としては何ともいえないけど(^^; 名前はクレジットされてませんが、またお知らせします。といっても、素晴らしいライターさんが上手い事使って下さるので、もとがどうあれ立派な内容になっています(笑)。

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